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東京高等裁判所 平成3年(ラ)326号 決定

抗告人 有限会社ゴールド

右代表者代表取締役 申徹

抗告人 申徹

右抗告人両名代理人弁護士 斎藤俊一

相手方 安教雄

主文

抗告人有限会社ゴールドの本件抗告を棄却する。

抗告人申徹の本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一  抗告人らの本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。抗告人(債務者)らと相手方(債権者)との間の前橋地方裁判所平成元年(ヨ)第一〇六号職務執行停止・代行者選任仮処分申請事件の仮処分決定に基づいてなす執行は、右異議事件に対する裁判のあるまで一時これを停止する。」との裁判を求めるというのであり、抗告理由は別紙抗告理由書記載のとおりである。

二  抗告人有限会社ゴールドの申立について

当裁判所も、代表者を申徹とする抗告人会社の本件仮処分の執行停止の申立は不適法であり、却下すべきものと考えるが、その理由は、抗告理由に即して当裁判所の判断を次に示すほかは、原決定の理由三1説示と同一であるからこれを引用する。

記録によれば、抗告人申徹は、抗告人有限会社ゴールド(以下「抗告人会社」という。)の取締役兼代表取締役の職務執行停止、代行者選任仮処分決定(前橋地方裁判所平成元年(ヨ)第一〇六号職務執行停止、代行者選任仮処分申請事件の平成二年一〇月一七日付仮処分決定、以下「本件仮処分決定」という。)により当該取締役兼代表取締役の職務執行を停止され、抗告人会社の代表者並びに個人として、これに対する異議を申し立てると同時に、右異議事件の裁判があるまでの間、本件仮処分決定の執行停止を求めているのである。しかしながら、このように仮処分決定により職務の執行が停止された取締役兼代表取締役は、当該仮処分の異議訴訟及びこれに伴う附随的申立においても、右申立人会社の代表者となることはできず、したがって、右会社の代表者として、右異議の申立に伴い右仮処分の執行停止を求めることはできないと解すべきである。けだし、既に発せられた仮処分決定により代表取締役の職務執行を停止された以上、その者が会社の代表者としてなした行為は絶対的に無効であって、後に右仮処分決定が取り消されても、遡って有効となることはないと解されるからである。そして、このように解しても、当該仮処分の異議訴訟及びこれに伴う附随的申立においては、当該仮処分により選任された職務代行者が会社を代表して、また、職務執行を停止された者が個人として訴訟手続を遂行することができるのであるから、それにより当該会社自身並びに当該職務執行停止を受けた者の訴訟遂行上の権益を害することはないからである。

そうであれば、本件仮処分決定により職務執行を停止された申徹が抗告人会社の代表者として、右仮処分決定の執行停止を求めることは許されず、これと同旨の原決定は相当であり、以上と異なる見解のもとに原決定の違法をいう抗告人会社の主張は、採用することができない。

三  抗告人申徹の申立について

仮処分異議に伴う執行停止の申立に対してこの申立を受けた裁判所が実質審査をしてその許否を決していた場合には、民訴法五一二条二項、五〇〇条三項の準用により、その裁判を独立の不服の対象とすることは許されないものと解すべきところ(最高裁判所昭和四四年(ク)第二四〇号、同四四年九月二〇日第二小法廷決定・民集二三巻九号一七一五頁参照。)、原審が抗告人申徹の本件執行停止の申立について実質的審査をしたうえ、同抗告人が回復することができない損害を被ることになるとはいえないと判断し、右申立を却下していることは原決定の判文に照らして明らかである。したがって、同抗告人の本件抗告は不適法であって、却下を免れない。

四  よって、抗告人会社に関する部分については原決定は相当であって、右抗告人の本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、一方、抗告人申徹の本件抗告は不適法であるからこれを却下する

(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 伊藤瑩子 近藤壽邦)

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